第32回全国大会レポート
2021/12/28
要項のダウンロードはこちらから2021年全国大会プログラム.pdf
● と き: 2021 年 8 月 21 日(土) ・22 日(日)
21日 13:00〜17:00(Zoom 開室:12:45)
22日 13:00〜17:10(Zoom 開室:12:45)
● 開催方法:オンライン(ZOOM)
第32回全国大会レポート
大会第1日中学校授業実践報告
「海外の生徒との交流を通してお互いのことを知ろう(中1)-新学習指導要領における小中接続の試み-」
報告者:山﨑 寛己(新潟市立下山中学校)
コメンテーター:和田 憲明(姫路大学)
中学校では新課程の教科書となり指導には小中連携が欠かせない状況にあるが,小・中学校の接続が上手くいっていないところは多いのではないだろうか。そんな中,ご紹介頂いた授業では小学校外国語からの接続を第一に意識し指導された内容であり,またそれは英語の指導や評価にとどまらず,先生自身が生徒に「伝えたい」「考えさせたい」というメッセージ性を感じる授業であった。
中学校入学後,話したり聞いたりする活動を中心に授業を行い,「小学校で習っているからわかっているだろう」と考えずにジョリーフォニックスを用いた音と文字をつなげる指導を行うなど,基礎固めを丁寧にされていた。その後も小学校の学びをリサイクルしながら言語活動へとつなげていき,生徒が「今まで学んできた(小学校)外国語」に意義を感じる瞬間を意図的に作った指導をされていたように感じる。生徒同士でやりとりをさせる際にも,「対話を続けるための基本的な表現」をスモールステップで指導されており,小学校レベルから中学校レベル(ここではハルビン市の生徒と英語でやりとりする力)までスムーズに引き上げられていた。交流前には外国人との交流に否定的であった生徒たちも居たようだが,交流後に書かれた振り返りには肯定的な内容も多く,それを取りあげて‘We can be friends. All are different, all are great.’というメッセージを伝えるなど,人権教育の視点も入れながら授業されていた点がとても印象的であった。小学校で育んだ外国語(活動)を上手に芽吹かせる指導がなされており,大変参考になる授業実践であった。
大脇 裕也(大東市立北条中学校)
講演
「英語運用能力を高めるテスティングと評価」
講 師:渡部 良典(上智大学)
司 会:國方 太司(大阪成蹊大学)
小中高校一貫の英語教育が導入され,学校教育において生涯の英語教育の土台となる力を育むとともに,実践的な英語力の育成が求められている。「外国語における評価活動の役割」を研究されている渡部良典先生から標題の講演をいただき,学習者が英語を使いこなす力を伸ばすために求められる評価・テストについて,5原則を次のように示された。
① 評価・テストを学習者が実力を発揮する機会にする。
目標言語(英語)を使って解答させるように配慮する。また,指示文や例示を工夫し,学習者の実力を引き出す工夫も必要である。
② 評価・テストの原理原則と指導の原理原則が一貫している。
学習内容があって評価が行われるわけであるので,4技能を統合した評価・テストを実施することが必要である。「話す」ことの技能の評価・テストを例にとると,読んだ英文の内容を自分の言葉で口頭で要約させたり,コメントさせたりするなど,内容,技能を統合したテスト・評価を工夫する。
③ 複数の機会と方法で能力や成果を測定し,継続的に記録する。
評価・テストは能力が直線的に向上してくことを想定している。しかし,習得は直線的に進むことはなく,U曲線で進む。このような特性のある習得の過程を見守るために,学習者の習得の過程を継続的に記録することが求められる。例として,学習者のライティング・ポートフォリオやリアクションペーパーの利用を挙げられた。
④ 評価・テストは教員と学習者のコミュニケーションの手段である。
評価・テストの評価基準を学習者と共有することで学習効果が期待できる,また,教員の共同作業としてテスト細目(目的,対象受験生の特性(学年・熟達度など),時間配分,構成,実施方法・手順,範囲,採点基準など)を決めて,教師間のコミュニケーションを促すきっかけとすることができる。また,これまでのテストの細目を作ることで,言語運用力を身に付ける指導改善に役立てることが期待できる。
⑤ 指導を振り返ることも重要である。
学びを促すテスト・評価を行うために,授業観察等を通して指導の効果の検証が求められる。そのために,互いの授業を観察する際に記録用紙を準備し,授業観察のポイントを観察者と共有し,授業を振り返るようにするなどの工夫が必要である。
渡部先生より原則をお聞きし,生徒が英語を使いこなす力を養うために,学習内容・指導・評価を連携させた計画が必要であることと,指導者・学習者間の評価規準,テスト細目の共有などが必要であることが印象に残った。2学期からの授業改善と学習を促すテスト・評価の進めかたを実践したいとの感想を多くの方が持たれた講演であった。
國方太司(大阪成蹊大学)
大会第2日 高等学校授業実践報告
「即興でテキスト内容を説明する,演じる(高3)」
報告者:本多 敏幸(千代田区立九段中等教育学校)
コメンテーター:髙橋 一幸(神奈川大学)
本多敏幸先生が教えられている東京都千代田区立九段中等教育学校での「コミュニケーション英語Ⅲ」の授業の内容を,報告していただきました。この授業は4名の先生が担当されていますが,全員の協力体制のもと,統一したCan-do リストとシラバスに基づいて行われているようです。これだけでも非常に印象に残る発表でした。
見せていただいた授業の内容は,どの部分をとっても綿密に組み立てられ,わずか50分の授業のなかに英語教員がモデルとすべき,さまざまな創意と工夫が凝縮されていました。
例えば,今後の英語教育の目標である,学習者の4技能5領域の言語能力の進捗を目指した統合型の学習活動を軸に,リテリングやロールプレイなどの活動が見事に織りなされていたように思いました。実は4技能統合型の言語活動が叫ばれたのは1980年代にさかのぼります。それ以来,様々な実践方法が提唱されてきましたが,本日の授業ではまさにその集大成を見るような思いをしました。
さらに,学習者の創造力を生かしつつ,いわゆる「主体的・対話的で深い学び」を促す授業運営にも,本多先生のきめ細やかな気配りが随所に見受けられました。これは,先生が長らく中学校で教鞭をとられてきた過程で,試行錯誤を繰り返され習得された授業術に裏打ちされたものではないでしょうか。なかなか真似できるものではありませんが,私たちが授業改善を試みる際には,是非,モデルとしてみたいですね。
最後に,ビデオにモザイクがかかっていましたが(これは時節柄仕方のないことですが),授業中の学習者そして授業担当者の様子を伺い知ることができなかったのは,個人的には大変残念でした。学習者と授業担当者の一挙一動をつぶさに視聴することで,これまで築かれてきた先生の授業理念に触れることができ,Zoom での視聴者はその素晴らしさを,より実感したに違いありません。本多先生,ありがとうございました。
大喜多喜夫(非常勤大学教員)
シンポジウム
「日本の小・中・高における英語教育の現状,課題,展望」
提案者:酒井 英樹(信州大学)
太田 洋(東京家政大学)
三浦 孝(静岡大学名誉教授)
コーディネーター :加賀田 哲也(大阪教育大学)
シンポジウムにおいて3名の先生方から,小・中・高における英語教育の現状,課題,展望について提案がなされた。酒井先生は今回の学習指導要領,太田先生は現場での実践,そして三浦先生はコミュニケーション活動例に着目した提案がなされた。
酒井先生は,校種間の連携については,目的を共有する者同士が,それぞれの立場で連携すべきであると述べられた。3つの柱からなる学力観をもとに,「場面」「活動」「学び方」をつなぎ,(1)育成すべき資質・能力の目線合わせを行うこと,(2)各学校段階で指導すべきことを指導すること,(3)学び方をつなぐことが重要であると言う。今回の学習指導要領では,小・中・高を通して,一貫して外国語(英語)によるコミュニケーション能力の育成を図る目標が具体的に示された点が新しく,小・中・高の教員は目線合わせに活用すべきであると言う。
太田先生は,学校現場での授業に着目し,小中連携のポイントは中学校であり,中学校が変わらなければいけない,という声がある中で,中学校の英語教育への提案をなされた。現状,中学校ではオーラルイントロダクションを用いた授業が一般的だが,ターゲット文を中心とした文法中心の授業となっており,正確さがより求められている。今こそ周到な準備の上で生徒がスムーズに話すことを目指すばかりでなく,「生徒が既習事項から自分で選んで即興で話す」tryout活動を試してみられることを勧められた。
三浦先生は,日本人の大半が英語に苦手意識を持つ現状をあげ,英語教育改革の必要性について述べられた。特に(1)学習環境を中心とする外国語教育政策の改善,(2)意味のあるコミュニケーション活動の実施が必要であるという。その上で,自己紹介やディスカッション活動など様々なコミュニケーション活動例を例示され,質問することの大切さ,知的なコミュニケーション能力を育てる質疑応答活動の重要性を説かれた。
加賀田先生は,新学習指導要領の求める英語授業は学習者,教師への負担が極めて大きいという声がある中で,語彙・文法事項など使える内容が広がり,より豊かなコミュニケーションが展開できると肯定的にとらえ,できることから少しずつ積み上げていきましょうと話された。
大村吉弘(近畿大学)
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